酒とダイエット

〈途中略〉愛酒家がもっともよく発する言葉は「飲酒は肥満の原因になるか」である。現在の飽食の時代の不安は贅沢なものである。健康に関心の高い長寿社会に住む我々としては、平凡ながら当然の質問である。

適度な飲酒は消化や循環の機能を高め、代謝を活発化すると言われている。また、ビールは”液体のパン”、日本酒は”米のエキス”などと呼ばれており、高カロリーの総合食品と思う人が多いのもわかる気がする。

〈途中略〉醸造酒は三大栄養素を少しばかり持つが、蒸留酒が持つのはアルコールのみである。

1g当たりのカロリーは、アルコールは6.93kcal、たんぱく質と糖質は各4kcal、脂質は9kcalである。淡色ビールの大びん一本(633ml)は約250kcal適度、日本酒一合(180ml)は約200kcalである。酒類の持つエネルギー(カロリー)は、蒸留酒にあってはそのすべて(100%)がアルコールによるものであり、醸造酒でも60%以上がアルコールによるエネルギーである。

体内に入ったアルコールは、おもに胃から吸収され、ただちにエネルギー源として利用され完全に分解される。また、一部のアルコールは呼気、汗、尿となって体外に排出される。カラオケで歌いつづければ、呼気からの排出は一層促進されるであろう。つまり、アルコールは、三大栄養素のように摂取したものが体内に蓄積されて、肥満につながるようなことはないのである。日本酒、ビール、ワインなどの醸造酒もアルコールを除いて考えてみれば、いすれも低カロリー食品と言ってよいものである。

蒸留酒のエネルギー源はアルコールのみであり、表の上では高カロリー食品にみえるが肥満の原因にはならない。

それではなぜ愛酒家が飲酒行動と肥満を強く関連づけて意識するのであろうか。なにか思い当たる理由があるのではないか。先に触れたように適量の飲酒は消化や代謝機能を活発にし、料理の旨さを増し、食欲が進んで食べ過ぎになる場合が多いことが理由であろうと思われる。充分に酒と料理を堪能した後のお茶漬け、蕎麦、帰路に立ち寄って食べる名物ラーメン…、これらの味は格別であり、経験者でないとわからない。明らかに飲酒ゆえに起こる余分の摂取であって、それらのカロリーが以外にも大きく、体内に確実に蓄積されて肥満の原因となるのである。

〈中略〉酒はゆっくりと味わうことである。ビールを飲むピッチが他の酒より早いのは、アルコール含量が低いせいではあっても、かといって一気飲みはいけない。

飲んでいる酒と相性の良い料理をとりつつ飲む。空腹に酒を流し飲む「カラ酒」は止めよう。よい酒と良い料理をバランスよく口にし、健康に格別の感心を持ちつつ飲む、話題豊富な常識人であることが、真の「良い酒飲み」であると思う。

酒の科学 野尾正昭 講談社BLUE BACKS