超俗奇癖の酒豪(Ⅲ)

こういう奇行がいろいろあった山田が静岡にいたころ、ある料理屋において自分の結婚披露宴を催すということで知友に案内した。招かれたつもりのかれらは祝儀をもって集合した。いよいよ宴がはじまろうとしたとき、山田は、「じつは本夕集まってもらったのは県下の重要問題について話を聞いてほしかったからである。新婚披露とでもしないと、多くのものが集まりそうもなかったので、こういうやり方をした。勘弁願いたい。今日いただいた祝いの金品は、後日結婚式をあげるまで、せっかくだからお預かり申すが、本日の宴会費はごめいめいからいただくので、どうぞよろしく」と挨拶した。一同は開いた口もふさがらぬ思いで、憤慨するのを通りこしてぼんやりしてしまった。

脱線奇行の癖があっても、どこかに一かどの取りえがあれば、おもしろい人物として迎えられ爪弾きされっ放しということのなかった、よき時代である。それだけ世の中にゆとりがあり、型にはまらぬ生き方を、結構貫き通せたのであった。今日のように、チンマリ固まって大人らしくなった人間ばかりで構成される社会では、これらの人物は鼻つまみされるだけだろう。

「酒が語る日本史」和歌森太郎 河出文庫