超俗奇癖の酒豪(Ⅱ)

ジャーナリストのうちにも変わりものの呑み助が少なくなかった。酒を飲むと、天下国家のことを平然と論じる傾きは誰にもあるが「天下の記者」として評判の高かった山田一郎(愛川と号した)は、三宅雪嶺に言わせれば「俊才の変、天才の畸、造物主傑作中の出来損ないたり」という人である。

酒を飲むと、じきに裸踊りをした。そして徳利を投げたり、世にこわいものなしといわんばかりに傍若無人の振舞いがあった。行儀の悪いのをたしなめられ、忠告されたりしたので、今後きっぱりそういうことはしないと誓い、ついてはその宣誓披露の宴をある料亭で開き友人たちを招いた。大酒を飲んでいるうちに、山田の姿が見えなくなった。客がどうしたのかと案じているうちに、裸体になった山田が現れた。腹に目鼻を書き、臍の下に口を書いている。その姿で、またまた踊りを始めて、自身禁戒を誓う席であることを、忘れたかのようにして踊り狂った。一同これには唖然としたという。つづく

「酒が語る日本史」和歌森太郎 河出文庫