燗酒は美味しい

宮腰太郎はいう。若い頃酒屋で合成酒のもっきり(立ち飲み)も始まった。
粋がってもっきりと居酒屋のハシゴをしたが、見つかって
「ここへ座んなさい。盗み酒は大目に見るが、しかしもっきりと冷や酒はよくないぞ。お前は御徒士(おかち)のように並んで酒を飲んでたっていうじゃないか」
町方の商家では、もっきりのように行儀の悪い酒の飲み方はご法度。
それに祖父は
「わたしだって若いうちは苦労してきたが、酒を冷やで飲んだことはない」
とよくいっていた。安後家人の倅に生まれ貧乏したけれど
「冷や酒を飲むほど落ちぶれはしなかった」
というのである。

時代は進んで昭和50年以降、飲酒の多様化などから日本酒の需要が低迷していく。
挽回のため業界こぞって取り組んだところ「燗酒」が、鼻をつくアルコールの匂いや手間がマイナス要因の1つとして浮かぶ。
ワインの需要増も後押しする。冷たく飲むのが当たり前となってくると、日本酒もそのままか、冷や専用の酒の開発が必要となる。
30年以上前から生酒や香りの吟醸酒を発売し今に至っているが、燗酒ファンは減少している。
燗酒の風味や温かさ、銚子による「差しつ差されつ」の情緒は変えられないものがある。
冷もいいが燗酒の回復を祈る次第。

宮腰太郎 作家 昭和三年生れ