海棠(かいどう)を愛でる

桜が終わるころ、ピンクの小さな花を咲かす海棠。北海道から九州まで広く栽培されて、庭木や盆栽で古くから知られ、ポピュラーというので見たかも知れないが覚えがない。この花を知ったのは小説で。小説中の美女もうっとりしているし、玄宗皇帝と楊貴妃の物語にも登場する海棠。今年手にいれてみよう。虜になるか。

「海棠を愛でるには、ほろ酔いがよいのである」故事がそう教えている。

むかし唐の玄宗皇帝がある宵、沈香亭にのぼって、寵姫(ちょうき)楊貴妃を召した。

貴妃は恰度(ちょうど)ほろ酔い機嫌で、横になっていたが、帝のお召しときいて、あわてて、起き上がったが、足もとがおぼつかなかった。

皇帝は侍臣や侍女に扶(たす)けられて、前に出て来た貴妃の、ほんのり上気した貌(かお)の美しさに、しばらく、言葉もなく、見とれた。

やがて皇帝は貴妃の手を把(と)って、

「酔っているのか?」

と問うた。

貴妃ははじらい乍ら、

「海棠の睡(ねむ)り、いまだ覚めませぬ」

と、こたえた、という。

睡花、という名はこれから起こった。

「徳川太平記」柴田錬三郎 文春文庫

 

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