止酒の詩 (3)

南宋の楊万里(ようばんり 誠斎 せいさい)にも「止酒」の詩がある。その意味はこうである。

酒を止めるにつき先ず契約を立て、堅く守りたいものと思う。

自分で契約して自分で守るのだから、きっと守れるとは請合(うけあ)われない。

契約の言葉が出ないうちに、心はもう暗くなって楽しまぬ。

平生死ぬほど酒が好き、酒のためなら官職をも棄てよう。』

憶(おも)えば昔若かかりし日、酒と忘年の交を結び、

酔えば草に寝ころび、落花を仮寝の茵(しとね)とし、

覚むれば月早や上がる、また落花の前に飲んだものだ。

腹の底から禁酒するのではないが、まあそれは今は言うまい。』

酒ゆえにしばしば病気になったが、自業自得で天に関せず、

朝からまた苦痛、薬を飲んでもなおらない。

どうあっても大杯と絶交だと、絶交書もちゃんと書いたが、

どうしたことか酒が離れぬ、口説(くど)かれて先立つ涙。』

我と心と怨み合い、心が沈めば我も楽しめぬ。

とうしようか、まあ心の浮かれるように、大杯をもう一度呼んでやろう。

後日また病んだら、追い追いに相談してみよう。』

これは「止酒」ではなくて「不得止酒」である。止酒すると見せかけて、土壇場で「大杯をもう一度呼んでやろう」と未練な翻意を示している。それもそのはず、楊誠斎の酒に凝り方は一通りのものでなかったらしい。彼は官饂(かんうん 官より官吏に支給される酒)を不美として、その家醸の美を数々詩に詠じて誇っている。

青木正児 酒中趣 筑摩叢書