七百余年前の酔いどれ考

原文:「世には心得ぬことの多きなり。ともあるごとには、まづ酒を勧めて、強ひ飲ませたるを、興とすること、いかなる故とも心得ず。………」

通訳:「この世の中には、わけのわからないことが多いものだ。何かあると、それにかこつけて、まず酒を勧め無理強いしてはおもしろがる。いったい、どういうつもりなのか、わけがわからない。酒を押しつけられた相手は、とても我慢できないといった顔つきで眉をひそめ、見られないように隙をうかがって酒をすてようとし、その場から逃れようとする。それをまた、捕まえて引き戻してべろべろになるまで飲ませると、まじめ人間もたちまち狂人となって、ばかを始める。また、健康な人間もみるみる重病人のようになって、前後不覚のまま倒れてしまう。お祝いの席だったら、周りがあきれかえるだろう。

飲んだ翌日は二日酔いで頭痛がひどく、胃に何も受けつけず、寝床の中でうめいている。昨日の出来事は、まるで前世のことのように全然記憶にない。だから、公私の大事な用事はすっぽかして、支障をきたしてしまう。

何にしても、人をこんな目に遭わせるのは、残酷で礼儀知らずだ。こんなつらい目に遭って、飲ませた相手を憎たらしく恨めしく思わないはずがない。これを、外国にはそのような飲酒の習慣があるそうだと、日本にはない習慣であるとして耳にしたならば、なるほどわけのわからない習慣だと、首をかしげるに決まっている。」

徒然草 酔いどれ百態 世には心得ぬこと(第百七十五段)

武田友宏 角川ソフィア文庫